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CWS創作学校

創作入門コース

STEP1 第1回テキスト

まず「お話」をつくってみよう!

 第1回目の今回は、「お話」づくりについてです。
 「小説」にはなにが必要といって、だいいちには「お話=ストーリー」でしょう。すれっからしの文芸批評家や小説を究めた読者などは、「お話」なんていらない、「描写」があればいいなどと言いますが、シドニー・シェルダンのジェットコースターのような物語進行が面白いことは、あるいは村上龍のようにスイスイとものごとが進む小説のほうが読みやすいことは、彼らの人気の高さが示すとおりです。
 ではみなさんは、これが書きたいんだという「お話」のネタをすでに持っていますか。たとえば、雪山で転落し怪我をした小説家が偏執的なファンに監禁され、自分のために小説を書けと脅される話(S・キング『ミザリー』)や、コインロッカーに捨てられたふたりの男の子の、壮大なビルドゥイングス・ロマン(村上龍『コインロッカー・ベイビーズ』)といったものを? 持っている、という人は、今回のテキストは読みとばしてしまって、早速そのテーマで小説を書きはじめましょう。しかし、なにかは書きたいけどなにを書けばいいのかわからないという人や、漠然と「恋愛」をテーマにしたい、あるいは「工事現場でみたあの面白い出来事」は盛り込みたいんだけどそのほかはなにも浮かばないという人は、たくさんいるはずです。では「なにを書くか」。今回はそれを決めてしまいます。

 さて「小説」の要(かなめ)が──もっと大きく言えばエッセイなどを含むすべての文章に必要なものが──なにを書くかという「お話」づくりなのだとしたら、ずいぶん難しいことを第1回目からやるんだなと思われたかもしれません。しかし、これなら誰にでもできるだろうという方法をいまからお教えします。それは、落語ではなじみ深い「三題噺」がヒントになっているのです。 まず「三題噺」とはなんでしょう。寄席などで客席から適当な言葉を3つ「お題目」としてあげてもらい、それらを即興的につなぎ合わせて1つの「お話」をつくるというものです。たとえば「鰍沢」はのちに歌舞伎の演目にもなりましたが、もとは円朝の即興でした。観客たちが、とりとめなく発した3つの単語からイマジネーションを広げ、むりやりにでもこじつけてストーリーをつくり、最後にはあざやかなオチをつける。もちろん過去の「お話」が膨大なデータベースとして頭にあれば、より有利に展開することができるというものです。

 O・ヘンリの「賢者の贈り物」という短篇を読んでいる人も多いでしょう。ある夫婦がクリスマスに、それぞれ心のこもった贈り物をします。妻は夫の宝物である金時計にぴったりの鎖を、夫は妻の美しく長い髪によく似合う髪止めを。けれども貧しい彼らは、相手への贈り物を買うために、それぞれ自分のもっとも大切な時計と髪を売ってしまっていた、という話です。これも「三題噺」のひとつですね。「鎖のない金時計」「だれもがうらやむ美しい髪」「クリスマス」という3つの要素が結びついたとき、完成度の高い物語ができあがったわけです。

 そこで、この「三題」を自分で用意し、そこから「お話」を考えてみるというのはどうでしょうか。実際にやってみましょう。

第1問

 まず「三題」のうちの2題はすでにつくってあります。「男の子」と「犬」です。「男の子」と「犬」だけだとどんな話でも書けてしまう――というよりも、あまりに平凡で漠然としていて、実際に物語をつくるのがムズカシイ。ではあなたなら、もうひとつの題目を、以下のうちのどれにすればいいと思いますか?

(答えのヒントが問題の後に書かれているので、この時点で、直感的にどれかを選んでください)

男の子・犬、そして、

  1. 公園
  2. デパート
  3. 宇宙船
  4. 墓地

ヒント
1を選ぶと、「男の子は公園で犬と出会い、夕暮れまで遊ぶ」という話ができます。
2であれば、「男の子がデパートの屋上のペットショップで、かわいい犬を見つけた」や、「デパートの売り場を犬が駆けぬけ、男の子がそれを追いかけて、商品棚がめちゃくちゃに」という感じでしょうか。
3の場合は、「男の子と犬が宇宙船にさらわれた」「男の子は犬と宇宙船に乗る夢を見た」など。
4であれば、「犬は近くの墓地に朝夕あらわれる。それは飼い主だった男の子がそこに入っているからだ」という話ができますね。

選択しましたか?
 細かなポイントはそれぞれの添削結果を楽しみにしてもらうとして、じつはこの問題では最初の前提に〈難〉がありました。それは、「男の子」と「犬」という題目がけっこう近い存在だということです。3つのうち2つが近い存在であれば、3つ目の題目まで違和感のない取り合わせにしてしまうと「お話」に広がりがでてきません。「公園」では、何かのストーリーの1シーンにはなっても、波瀾含みのストーリーはつくりにくい。デパートだと公園よりちょっとましという程度。しかし「宇宙船」ともなると、ただの荒唐無稽か、あるいは「夢オチ」といって「全部は夢でした」という結末をつけがちです。では「墓地」はどうか。これは浅田次郎ばりの「泣かせる」話がすぐに思い浮かぶシチュエーションだけれども、「すぐ浮かぶ」ということは他の人でも浮かぶ、という意味でオリジナリティに欠けますね。
 ここで重要なのは、3つの要素があればひとつのシーンは簡単にできるけれど、「お話」にするには、それらの設定時点で、意図的に「距離」をつくらなくてはならないということです。「飛躍」と言い換えてもいいでしょう。寄席の観客が、とうてい結びつきそうもない3つをお題目にするからこそ、ダイナミズムが出てくるのと同様です。
 それから、具体的な名詞の単語を取り合わせなければならない、というのも、もうひとつの〈難〉でした。「名詞」は事物一つひとつに与えられた名前のことですから、その単語にかかる「限定」が大きいのです。私たちは、自身の想像力などちっぽけなものだと考えなければなりません(誇大妄想狂でなければ)。人を驚かせるほどの想像力の駆使は容易なことではないのです。であれば、限定がより弱く、単語の持つ意味が広いものもお題目に入れておいたほうがいいでしょう。たとえば、「友情」、「不誠実」あるいは「官能」。つまり抽象的なイメージを示す言葉ですね。
 なんだ、難ばっかりの問題だったのか、と非難が出たところで、気を取り直してやっていただく次の問題がこちらです。

第2問

 今回は、下に30個の単語を用意しましたので、そのなかから3つを取り出し、100字程度で「お話」を自由につくってください。「小説」を書くのではありませんよ。あくまでも「ストーリー展開=あらすじ」を100字程度にまとめるのです。

地図 男の子 神秘 薬 フライパン 留置所 散歩 惑星 夜 友情 宅急便 病院 ドレス 命令 宇宙船 老人 官能 質草 訴訟 ひなた 冷酷 葬式 誕生 ベッド 制服 遊園地 プール 尊厳 走行 ビデオ

 ここで、「男の子」「走る」「遊園地」をセットで選ぶと、先に述べたように「近い関係」でストーリーの飛躍ができませんから、パッパッパと直感的に選んでください。むかしテストのときに、どう考えてもわからない選択式の問題の答えを、鉛筆を転がして決めたりしましたよね。ああいう感じで、できるだけ恣意的にならないように選ぶのがコツです。

 さて、しかし一方でこんなことも言われています。「男と車とピストルさえあれば映画が一本撮れる」。先の三題噺の例でいえば、どんなに紋切り型の「近い」関係の要素を取り合わせたとしても、撮りかた=書きかたひとつで、新しいものが仕立て上げられる、という意味です。「男と車とピストル」というありふれたダシから取ったスープを使いつつも、自分なりの調味料を使ってあたらしい一皿をつくる――これもまた正しい認識です。しかし、映画にせよ小説にせよ、「まったくあたらしい物語」を自分で発明できるというのは間違いで、おそらく、書こうとしたことはほかの誰かによってすでに書かれており、自分だけの体験、と感じていることだって誰かが体験/想像し、「小説」になってしまっているはずです。
 だったら、3つのお題目に少々飛躍をつけたところで、すべては書かれてしまっているという現実に太刀打ちなどできないんじゃないか――こうした(しごくもっともな)疑問には、大きな声でノーといいます。 たとえば、古今東西数えきれないほど書かれた「恋愛小説」とは、〈他人同士が出会い、惹かれ、困難にあい、再度互いに向き合う/別れを決意する〉という「お話」にすべて則っているとも言えてしまいますね? しかし新しい恋愛小説はどんどん生産されていて、面白いものもあり、つまらないものもあります。心をわしづかみにされるものも、あまりにパターン化された展開でヘキエキさせられるものもあります。だからこそ、「所詮はすべて書かれている」といったシニシズムにあぐらをかいていてはいけないのです。
 まずはしっかりしたスープを用意しましょう(=「お話」づくり)。そこに、周りの店がどんな調味料を使っているかを調べて、その研究成果を発揮して(=既存の「小説」を読む)、なにか自分だけの「調味料」を足し(=「お話(あらすじ)」をルールに則って肉付けする)、新しい味をつくる。これが、いま、あなたが、小説を書くということの意味なのです。

ここで最後にもうひとつ、課題を出します。それは、第2問で作ってもらった「お話」に、また別の要素をぶつけてみることです。三題噺ではなく、四題噺になるというわけですが、それは、「時間経過」の要素をストーリーに持ち込もうという目論見によるものです。
 「起承転結」という言葉を、それこそ小学生のころから私たちは聞かされていますが、とりあえず「起承-結」が小説一般には必要だと考えてください(なぜ「転」がいらないかというと、往々にして「転」でご都合主義に走ってしまうパターンが多いから、というのが理由ですが、ここではあまり気にしないでください)。何かが起こって、いろんな「綾」があって、結末に至る――このとき、現在から未来へただ進行していく、という「お話」がどうしても多くなってしまうので(さっき書いたものはどうでしたか?)、まさに「綾」として主人公の「過去」をでっちあげてみたいと思うのです。奥行きが出るはずですよ。

第3問

 先の30の単語から、もうひとつ別の単語を選んでください。鉛筆を転がすように、目をつぶってマウスを動かし……、単語の選択は運に任せます。 じつは、みなさんが書かれた第2問の「お話」の主人公には、過去に、4つ目の単語にまつわるある出来事を経験したという歴史がありました――もし、すでに「過去」を「お話」に盛り込まれている方は、主人公の近未来に、4つ目の単語にまつわる出来事が降りかかる、という設定にしてください。
 さて、もう一度150字程度で「お話」を再構築してください。くどいようですが、あくまでも「あらすじ」でいいのですよ。「小説」をたった150字で書こうなんて、無謀ですから。

では、添削結果をお楽しみに。